コラム 【11月号】
● 今月のテーマ 〜音楽はすべての芸術をつかさどる〜10月号より続く。
 絵画、詩、小説…ありとあらゆる「芸術」がこの世には存在するが、音楽は、他の芸術とは一線を画するように感じられる。最も生命原理に近い、生命哲学の根幹にかかわる、とでもいおうか。

 実際、古代ギリシャ以来、音楽は、芸術論の中枢だと認識されてきた。特にヨーロッパ文化においては、音楽を芸術の1ジャンルとしながらも、倫理や精神、さらには創造性の原点としてとらえる思想が、今日にも受け継がれている。それは、「音楽」の語源にも象徴されている。英語でいえば、「Music」これは、ギリシャ語の「Musike」から生まれた言葉であり、「ムーサの技」「ムーサがつかさどるもの」という意味だ。

 ムーサとはギリシャ神話における人間の知的活動をつかさどる女神のことであり、「Musike」という言葉は、詩や舞踊といった美的行為も含まれていた事がわかる。つまり「Music」という語それ自体は、知的活動と不可分な意味合いを持つ言葉であって、「音」という意味は持たない。

 芸術の神ミューズから直接降り立つもの。命にかかわるもの。古来、音楽を奏でること、音楽を聴くことは、生の本質であるとさえ考えられていたのである。音というものを梯子にして地上に降り立った女神ミューズ、すなわち「Music」の象徴の微笑を、私は探し続けている。それを生み出すものは音だけでなく、思考や情動、生命の躍動とも呼ぶべきものではないだろうか。このように考える時、音楽は芸術の一形態を超える存在として、私の前に顕われてくる。

[すべては音楽から生まれる]茂木健一郎 著 PHP新書より
リトミック豆辞典
 音楽に対する知識が十分で、人間への愛が強いなら、生理学と心理学、音楽と幾何学、造形的な運動と教育のすべてを同時に扱う困難さを恐れるには及ばない。なぜなら、そこにひとつの普遍的な要素、唯一の力、生命と統一を与えるもの「リズム」がある からだ。(ダルクローズ論文集より)
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