コラム 【6月号】
● 今月のテーマ 〜忘れられた鼓動〜
 先日読んだ本の文章が妙に気になって皆様にご紹介します。現代人の我々にとって、考えさせられる内容ですね〜

【忘れられた鼓動】
 「ドキッ」「ドキッ」という心臓の鼓動はニ拍子かと思っていたが、どうもそうではないらしい。よく聴くと、弁膜を開くときの音が間に入ると「トクトゥ」「トクトゥ」と三拍子のリズムになっているそうだ。「太鼓の音は心臓の音だ」アフリカの人々はよくいう。そういえば、アフリカの音楽は三拍がひとまとまりになって聞こえてくる曲が多い。もしそうだとすると、アフリカの人々はいつも心臓の弁膜の開く音など聞いているのだろうか。それはおそらく、狩りのときだろう。森の中で獲物にねらいをさだめて、じっと息を凝らす。まわりは無音の真空状態となって、自分の体内の音だけが浮き上がって聞こえてくる。心臓の鼓動だ。

 われわれにとって、これは遠い遠い過去の記憶である。現代社会にあくせく生きるわれわれには、その音はもはや聞こえない。しかし、その音をかつてわれわれもたしかに聞いていたのである。木にとまる蝉を採ろうとしてじわりじわりと手を伸ばしていった瞬間に聞こえてきたあの音だ。この音を失うということがわれわれにとって何を意味するか、それをアフリカの深い森の中に入って考えてみることにしよう。

 森の民ピグミーの人々こそ「弁膜の開く音」を本当も意味で知っている人々にちがいない。内なる音と外なる音を知る人々。彼らこそ、何を隠そう、じつはアフリカ最古の民族の一つなのだ。ピグミーはかつてアフリカ大陸の広い地域に住んでいたが、後に大陸の北西部からやってきたバンドゥーと呼ばれる人々に追いやられ、現在のように点在して住むようになった。彼らの追いやられてその歴史は、そのまま心臓の鼓動の神秘を忘れてゆくわれわれの心の歴史とも、妙に重なりあっている。   《塚田健一著 アフリカ音の世界より》
リトミック豆辞典
リトミック・・・ フランス語で rythmique と書き、ギリシャ語の よいながれ協和・調和 という意味をもつ、ユーリズミー(eurhythmy)またはユーリズミック (eurhythmic)に由来しています。 音楽的な直観力や集中力を高め、音楽を自然に 表現できるために、身体の各部分の感覚を呼び覚まし、生徒たちが よいながれ を 見つけることがとても大切です。
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