コラム 【7月号】
● 今月のテーマ 〜リトミックが音楽教育の基礎となる訳〜
 リトミックとはスイスの作曲家・音楽教育家、エミール・ジャック・ダルクローズ(1865〜1950)によって、考えだされた音楽教育法です。従来の教育方法である、譜面至上主義に疑問を抱いていた彼は、試行錯誤を繰り返しながら、“リトミック”と言う音楽教育法を生み出しました。これは、言語を取得して行く段階に非常に似ていると私は思います。

 耳から入った音をキャッチする→その意味を判断理解する→発声と体を使って何とかして理解してもらえる様表現する→自由に話せる様になって始めて読み書きが始まる

“リトミック”は以上の段階をふまえて音楽教育を行いますので、人間の成長の理にかなった教育方法と言えましょう。

 ここに、ダルクローズがリトミック学説の基礎となったエピーソードを御紹介しましょう。

 〜生徒を観察していて、彼は突然、探しているものを発見する。彼は生徒達を見る。音に合わせ、クレッセンドに従い、アクセントを区切って、元気の良い足が地面を打っている。頭が揺れている。生徒達は動くにまかせている。良く見ていよう。体を揺すり、頭を上下に揺すり、左右に振り、拍子を取り…彼等は音楽にひたりきっている。まさにそれだけだ。彼等は感じている。感応している。彼等は楽器そのものだ。そう、彼等は楽器なのだ。ダルクローズは目的に迫り、それを見抜き、そして到達する。彼は発見したのだ!身体は第1番目の楽器、活発な精神の動きに順応する協力者なのだ。そして、芸術家はそうした精神と身体の一致から出発するのだ。(『エミール・ジャック・ダルクローズ』 板野平訳 全御楽譜出版社 より)

 近年、幼児のためのリトミック教育が大変盛んですが、私は、リトミックをもっと大きくとらえて、年齢に関係なく、人間の芸術性全般にわたって深い係わり合いを持つ“感性の発達教育”と考えています。ともすると、先へ先へと知識を詰め込まれる傾向が見受けられる、近頃の幼児には、歌を歌う、楽器を演奏する、と言った事だけでは無く、音を楽しむゆとりのある心、安定した心を持つ事はとても大切な事なのです。
リトミック豆辞典
 五感及び筋肉の感覚でとらえた感覚は、情報として脳に伝えられます。この時、視覚と聴覚など多くの感覚が同時に刺激されることがあります。この時集められた情報が記憶として脳に残ります。このように実際の体験が知識に先立つことが大切だとダルクローズは考えました。
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